ジャミルリを通して|エケベリア属における流通名の実態と交配情報が非公開とされている理由

イントロダクション用デザイン画像 「ジャミルリ」をはじめ、エケベリア属は、実は、品種登録や交配親に関する公式な記録が存在しないのが実態です。この記事では、管理人がジャミルリと出会った経緯と、現在確認できる範囲でのエケベリア属における事実情報を整理しました。また、ジャミルリの名称についての考察や、「名前の曖昧な植物とどう向き合っているか」管理人自身の考えもお話します。

ジャミルリとの出会い

管理人が育てているエケベリア・ジャミルリ。淡いブルーグリーンの葉色に、先端がやや赤黒く染まるロゼット型の外観を持ちます。※管理人撮影(自宅)

管理人が「ジャミルリ」という名のエケベリアに出会ったのは、まったくの偶然でした。

きっかけは、「ガーデントラック」で目にした一株の多肉植物──ムーンフェアリーとの出会いです。

なんとなく魅力を感じて購入したムーンフェアリー。その後、調べていくうちに、兄弟品種の「アルフレッド」を通して親品種の「プリドニス」「アルビカンス」にたどり着き、誕生ルーツや名称にも興味を持つようになりました。

そしてアルフレッドをネットショップで購入した際のことです。届いた箱の中に、小さな札とともに一株の多肉植物がオマケとして添えられていました。
そのラベルには「ジャミルリ」と記されており、それが最初の出会いとなりました。

ジャミルリ──その名前は聞いたことがなく、現在その正体を少しずつ探りながら育成を続けています。

今回は、そんな「ジャミルリ」および「エケベリアの流通名」について、管理人が事実ベースの調査から情報を整理してみました。

エケベリア属は品種登録・交配情報が未確認

「ジャミルリ」をはじめ、交配種のエケベリアには品種登録や交配情報、育種者情報といった公式な記録が存在しないため、その実態はほとんど明らかになっていません。

名称学名園芸品種名流通名表記例親品種
ジャミルリ交配種または選抜種のため無し未登録のため無しジャミルリ該当なし不明(親情報の記載なし)
ムーンフェアリー交配種のため無し未登録のため無しムーンフェアリーEcheveria ‘Moon Fairy’プリドニス × アルビカンス
アルフレッド交配種のため無し未登録のため無しアルフレッドEcheveria ‘Alfred’プリドニス × アルビカンス
プリドニスEcheveria pulidonis E. Walther学名を持つため無しプリドニスEcheveria pulidonis原種のため該当なし
アルビカンス交配種のため無し未登録のため無しアルビカンスEcheveria ‘Albicans’ラウイ×セクンダとされる

2025年4月時点で確認できる限り、ジャミルリ、ムーンフェアリー、アルフレッド、アルビカンスに関する公式な品種登録・交配親の記録・育種者の情報は存在していません。
学術文献や国際的な植物登録データベース、主要な育種国(韓国・アメリカ・日本など)の品種登録機関でも確認されていません。

なぜなら園芸品種名は本来、ICRA(国際栽培品種登録機関)に登録されるべきですが、エケベリア属には現時点でその登録機関自体が存在しないからです。
なお、ICRAは属ごとに指定される仕組みのため、現時点でエケベリア属を担当する登録機関が設けられていない以上、正式な園芸品種名としての登録自体が不可能な状態です。

そのため、エケベリア属の交配種はすべて未登録のまま流通しており、園芸品種名および学名としての扱いも存在せず、「流通名のみが存在する未確認種」と言えます。

命名規約に基づく名称表記のルール

1. ICNCPに基づく園芸品種名の表記
2. 流通名の表記例
3. ICNに基づく学名の表記

植物には、「学名」と「園芸品種名」が存在し、それぞれに命名形式(国際的な命名規約に基づく表記のルール)が定められています。

ICNCPに基づく園芸品種名の表記

  • 国際栽培植物命名規約/ICNCP(International Code of Nomenclature for Cultivated Plants)
  • 栽培品種(園芸種)に対して適用される命名規約。

ICNCPでは、園芸品種名の正式な表記を以下のように定めています。

🔹 属名(イタリック体)+ ‘品種名’(クォーテーションで囲み、直立体)
🔹 原則として、種小名は含めない。

例:バラ・ピースの場合

⭕ Rosa ‘Peace’
※正式な園芸品種名として登録されているため、このように表記します。

流通名の表記例

交配種のエケベリアは、正式な学名も園芸品種名も存在せず、流通名のため、「ICNCP準拠の表記形式」を用いること自体が制度的には矛盾を生んでいますが、以下のように用いられることが多いです。

ムーンフェアリー、アルフレッドの場合

✅ Echeveria ‘Moon Fairy’
✅ Echeveria ‘Alfred’
この表記は、ICNCP(国際栽培植物命名規約)に準じた命名形式に則っているが、国際的な植物データベースへの登録は確認されていない。

アルビカンスの場合

✅ Echeveria ‘Albicans’
この表記も、ICNCP(国際栽培植物命名規約)に準じた命名形式に則っているが、国際的な植物データベースへの登録は確認されていない。

❌ Echeveria elegans ‘Albicans’
この表記は、アルビカンスに最も良く使われていますが、種小名(elegans)を含めたこの形式は、命名形式としても不適切です。

この誤表記は、アルビカンスの見た目がエレガンス系に近いためと考えられます。しかし、実際には、原種のエレガンス(Echeveria elegans)がアルビカンスの誕生に関与している可能性は低いと考えられます。その理由は、以下です。

  1. アルビカンスは中型エケベリアであり、公式な記録はないが韓国ナーセリーにおいては「ラウイ(中型)× セクンダ(中型)」が親品種とされていること。
  2. 一般的に親品種として用いられるのは、形質が安定した“原種”または“原種に近い単純な交配種”であり、多段階交配された品種が親として使われることは少ない傾向にあること。
  3. エレガンスは小型の原種であること。
🌱 このように、ICNCPに準じた表記がラベルや流通上で使われてはいるものの、実際には登録制度が存在しないため、それは形式上の見かけにすぎず、品種名としての法的・制度的根拠は持ちません。

ICNに基づく学名の表記

  • 国際藻類・菌類・植物命名規約/ICN(International Code of Nomenclature for algae, fungi, and plants)
  • 野生植物、藻類、菌類に対して適用される命名規約。
  • 学名(ラテン名)を定めるためのルールを扱う。

ICNでは、植物の正式な学名表記を以下のように定めています。

🔹 属名(イタリック体)+種小名(イタリック体)+命名者名(ローマン体)
🔹 クォーテーションは一切使わない。

プリドニス の場合

⭕ Echeveria pulidonis E. Walther
※正式な学名として登録されているため、このように表記します。

ラベル表記と名称のバラつきについて

「別名として流通している」「混用されている」など“流通実態”がどうなっているのか見てみましょう。

ムーンフェアリーやアルフレッドは、流通名として「ムーンフェアリー(アルフレッド)」というような混同表記も見られはしますが、「Echeveria ‘Moon Fairy’」「Echeveria ‘Alfred’」は別品種として、一応ラベルの体制は整っています。

しかし、ジャミルリは、「Echeveria ‘Jamilri’」というようなラベルの一貫性すら、現時点では確認されていません。
また、「ザミルリ」という表記で販売されている類似個体も確認されていますが、「ジャミルリ」と同一の個体であるかどうかは不明で、表記の揺れなのか、別の品種なのかは判断できません。

エケベリアの中には、ジャミルリのように、流通名としての体裁そのものが曖昧で、その他の情報も限りなく少ない品種も存在します。
例えば「ムーンオペリー」もジャミルリ同様、表記揺れの疑いが強く、こちらも流通名としての体裁すら曖昧な品種です。

原種のプリドニスにおいても、「プリドニス(花うらら)」という併記や、「花うらら」を別名や和名として扱うラベル表記が見られますが、「花うらら」は固定された選抜個体と考えられ、厳密には原種のプリドニスとは異なる扱いになります。

なぜ、和名が付けられたのか?

1970〜1980年代は、第一期の「多肉植物ブーム」でした。
あくまで管理人の立てた仮説ですが、「花うらら」は、日本にプリドニスが輸入された当初、ラテン名やカタカナ表記よりも、日本語の名称の方が一般に受け入れられやすかったために付けられた和名である可能性があります。

この時点での「花うらら」は、原種のプリドニスそのものであったと考えられますが、その後、葉色や縁取り、草姿などが比較的安定した個体が選抜され、選抜個体群およびクローン個体群を指す流通名として現在では「花うらら」という名が定着したと考えられます。

交配情報が非公開となる理由

エケベリア属は、その系統・背景・特性についての裏付けや交配親が不明なことも多く、一般の人が誕生の背景を知るすべは、ほとんどありません。

ジャミルリのように、交配親の情報が公開されていないエケベリアは珍しくありません。
実際には交配親が確定している場合でも、あえて情報を非公開とするケースが多く存在します。主な理由は以下の通りです。

商業上の都合
自社育成ルートや交配ノウハウを守るため、あえて親品種を非公開にすることがあります。このような対応は、韓国の育種業者をはじめ、一部の市場で広く見られます。

非登録流通品であるため
交配種のエケベリア属は、公式な品種登録を経ていないため、そもそも交配記録が公開対象ではありません。

系統が複雑または不明瞭なため
多世代交配や自然交雑を含む場合、育種者自身が明確な親情報を把握していないケースもあります。

販売上の戦略によるもの
品種の希少性や独自性を演出する目的で、あえて外見やブランド名のみを前面に出し、交配情報を伏せることがあります。

💡 交配親が公開されているエケベリアは、「育種者または販売者が自ら交配経緯を示した場合」に限られます。
💡 登録制度が存在しないため、情報公開は義務ではなく、完全に任意です。
💡 したがって、公開されていても、制度的に保証されているものではありません。

流通量はごくわずか|現在はレア種の扱いに

ジャミルリのレア性について整理してみます。

2025年4月現在、「ジャミルリ」という名前で販売されているエケベリアは、ごく一部の園芸通販サイトや即売会などでのみ確認されており、一般的な園芸店やホームセンターなどではまず見かけることはありません。

そのため、現在では「レア種」の位置づけにあると言えます。ただし、この「レア性」は、情報と流通の少なさに起因するものです。

未登録品種の中には、一定の流通ルートや命名パターンが見られるものもあり、品種ごとの背景や扱い方には違いが見られます。

例えば、「ムーンフェアリー」や「アルフレッド」「アルビカンス」などの未登録品種も、レア種~ややレア種とされていますが、これらは定期的な入荷があり、名称・生産・流通ルート・親品種についても、一定の情報が共有されています。

一方、ジャミルリは、名称・生産・流通ルート・親品種などの情報が一切確認されていません。実際の入荷例もごくわずかで断片的です。

未登録品種の中には、実生繁殖みしょうはんしょく(種からの増殖方法)によって生じる個体差の中から、形質が安定した個体を選抜し、「ムーンフェアリー」や「アルフレッド」のような名称が与えられることがあります。

ジャミルリは、こうした品種の栽培・選抜の過程で、基準に満たなかった個体として偶発的に名付けられ、名前もラベルも曖昧なまま “おまけ” や “実生苗” として出回った可能性があります。

一方で、育種者が最初から別の命名意図でジャミルリと名付けたが、流通せず定着しなかったケースや、個人レベルで名付けられた実生個体が、ごく少数流通した可能性も考えられますが、明確な記録が存在しないため、詳細は不明です。

ジャミルリに限らず、こうした実生苗は、入荷や流通の再現性も不安定な状況で、一般的な販売ルートにはほとんど乗らず、品種としての立場が非常に曖昧です。

現時点で、ジャミルリの品種背景や供給体制を把握するのは困難であり、今後安定して流通するかどうかは不透明なままです。

このように、ジャミルリは「名称が曖昧」なうえに、「流通量が少ない」。さらに「生産・流通ルート・親品種」という点が一切確認されておらず、流通上は結果的に“珍しい存在”となっています。

ジャミルリという名称はどこから?

「ジャミルリ」という名称の語感や由来について、既知の言葉との関連を調べてみました。

エケベリア属の品種には、地名・人名・言語などに由来する名前が数多く見られます。

例えば、Echeveria chihuahuaensis(チワワエンシス)は、メキシコのチワワ州、Echeveria laui(ラウイ)は、メキシコの植物学者 Alfred Lau(アルフレッド・ラウ)にちなんでいます。

また、Echeveria(エケベリア)という属名自体も、18世紀の植物画家・博物学者 Atanasio Echeverría y Godoy(アタナシオ・エチェベリア・イ・ゴドイ)に由来しています。

しかし、「ジャミルリ」という名称については、既知の地名・人名・言語にそのまま一致する単語は確認できませんでした。ただし、音の響きが非常に近いものとして、以下のアラビア語が見つかりました。

  • ジャミル / جميل
  • ジャミラ / جميلة

「ジャミル」も「ジャミラ」も、「美しい」という意味の形容詞です。

ジャミル(جميل)は男性名として、ジャミラ(جميلة)は女性名として、アラブ諸国を中心に、実際に人名として使われています。

日本では、英語名に「-elle」「-lyn」「-ri」「-ra」などを語尾に付けて語形を整える傾向があり、園芸植物の名称において装飾的な変形が見られます。

例:Angela(アンジェラ) → アンジェリ / アンジェリー / アンジェルリなど

また、韓国の多肉植物のラベル名でも、語尾に「-li」「-ri」「-ly」などを付けて名前風の語感に寄せる命名が頻繁に行われています。

つまり、あくまで推測ですが、「ジャミルリ」という名称は、アラビア語の「ジャミル」をより装飾的な名前に変形させた結果ではないかと考えています。

でも、この命名に関する仮説が正しいとすれば、ジャミルリが単なる「選抜落ちの実生苗」だった場合、偶発的に付けられた名前にしては、少々オシャレすぎるというか、洗練されすぎているのではないかと感じます😂

そう考えると、ジャミルリは単なる「選抜落ちの実生苗」ではなく、むしろ育種者が命名に何らかの意図を込めていた可能性の方が高い気がします。

……まあ、あくまで命名に関する仮説が正しいとすれば。ですけどね。

命名理由などの記載があれば、もっと愛着も湧きそうなので、ぜひそうした情報は知りたいところです😗

ちなみに、「アルフレッド」という名称は、偶然にも──あるいは意図的に──エケベリア・ラウイの発見者である Alfred Lau(アルフレッド・ラウ)と同じ名前を持ちます。

アルフレッドのルーツは、
ラウイ × セクンダ = アルビカンス
アルビカンス × プリドニス = アルフレッド
とされています。

名前の付け方に明確な根拠は示されていませんが、ラウイの系統を経た品種に、発見者の名前が偶然(あるいは敬意を込めて)与えられた可能性も、想像としては面白いところです🙂

エケベリア属の現状と冷静な生育を楽しむために

エケベリアには非常に多くの流通名が存在しており、それぞれ「別品種」とされていますが、どのエケベリアも品種としての定義も登録も存在せず、名前だけが独立して流通している状態です。

これがエケベリア属の品種における最大の特徴であり、混乱の根源だと言えるでしょう。

現時点で唯一明確に言えるのは、「エケベリア・〇〇」という名前で植物が販売されており、園芸的な流通の中で一定の存在感を持っているという事実だけです。

この状態が異常であるにもかかわらず、エケベリアの世界では“当たり前”として成立しているのが、“実に特異“だと管理人は思います…🤔

しかしながら、こうした品種に対して、「よくわからない」「データがない」という現状に、思考停止することはありません。それ自体を正直に認識することが、園芸を冷静に楽しむための出発点となるのではないでしょうか。育ててみて初めて見えてくるものもあるかもしれません。

この記事では、エケベリアの名称について現状の事実を述べましたが、どんな植物を育てるうえでも、「名前は決して重要ではない」と管理人は考えています。
名前は、育て方を調べたりするための一つの情報に過ぎないからです。

名前は知らなくても、よく観察し、考えることで、上手に育てられるようになりますし、その植物本来の魅力を感じることができるようになります。
それで良いと思っていますし、それこそが植物育成の本質だと思います。

管理人のもとに届いたジャミルリ、その他のエケベリアについては、今後も育成を続けながら、その成長や性質を記録していく予定です。
また、育成の過程で得られた観察記録や、新たに信頼できる情報が確認できた場合には、あらためて別記事にて紹介したいと思っています。

🔹 本記事の内容について
本記事は、当ブログ(北海道ガーデニング)の管理人「kikori」が、エケベリア属の流通名や登録実態に関する既存の知見をもとに、観察・調査・情報整理を行い、独自の視点から考察および仮説を提示したものです(2025年4月20日公開)。
今後、研究者や専門家のさらなる調査によって新たな知見が加わる可能性がありますが、本記事の内容はkikori独自のものであり、どの媒体においても無断使用や無断引用を禁じます。