
自家採取の種の発芽率が悪い理由

マリーゴールドの種を採取してまいても「発芽率が悪い」「自家採取の種は発芽しにくい」と感じるのは、単純に4つの理由なんです。
1️⃣ 未熟な種を採取している
種が完全に熟していないと、発芽能力が十分でなく、発芽率が極端に落ちてしまいます。
2️⃣ 乾燥が不十分な状態で保存している
採取後にしっかり乾燥させていないと、保存中に劣化し、発芽率が低下します。特に、湿度の高い環境ではカビが生えやすく、種の品質が悪くなることがあります。
3️⃣ F1の八重咲き種子を採取している
市販のマリーゴールドの多くはF1(第一代雑種)です。
そこから採れた種(自家採取)はF2にあたり、特に八重咲きのF2は、雄しべの退化や不稔性が強く、発芽率が著しく低くなります。
4️⃣ 種子選別ができていない
市販種子は未熟種子や奇形胚を除去するため、比重選別や光選別などの工程を経ていますが、自家採取ではこうした選別が行われないため、発芽率が不安定になります。
1️⃣ ~4️⃣ までの詳細と、発芽率を上げるための具体的な方法を見ていきましょう!
自家採取のベストタイミング

まずは、種の採取時期を見直してみましょう。
種の採取時期が早すぎると、未熟な種を取ってしまい、発芽率が下がります。逆に遅すぎると湿気を含んだり、霜の影響を受けることがあるため、しっかり完熟した状態で採取することが大切です。
北海道での採取時期
✅ 8月中旬~9月下旬
⚠ 10月に入ると朝晩の気温が下がるため、できるだけ早めに採取する
⚠ 遅くても霜が降りる前に採取を終わらせる
採取に適した天気と時間
✅ 晴れの日が続いたあとに採取するのが理想
⚠ 雨が続いた後に採取するとカビの原因になるため、天気予報をチェックし、晴れが3日以上続くタイミングで採取する
⚠ 晴れの日が続いても秋は朝露が発生しやすいため、午前中は避け、午後に採取するのが望ましい
完熟のサイン
✅ 花が茶色く枯れてから約3~4週間後
→ さやがパリパリに乾燥した状態(湿り気があり水分が残っている状態ではまだ早い)
→ さやの上に花の色が残っていない(乾燥が不十分で未熟)
→ ⭕ 成熟した種:種の黒い部分がしっかり黒く先端はベージュ~クリーム色に分かれている
→ ❌ 未熟な種:種が黒くなりきっておらず、先端が赤みがかったオレンジ~茶色っぽい
追加乾燥|さやのまましっかり乾燥させる

乾燥した種を採取したつもりでも、採取後の種にわずかに水分が残っていることがあるため、”追加乾燥“を十分に行う必要があります。
追加乾燥は、「さやごと追加乾燥させるのがベスト」です。さやごと追加乾燥させて、その後、種を取り出して保管するほうが安全で発芽率が安定しやすいです。
特に北海道の秋は、気温が低い+湿度があるため、さやから取り出してしまうと、急激に水分を奪われ、乾燥が一気に進み、種(胚)がダメージを受ける可能性があるためです。
さやがあることで、北海道の秋の昼夜の激しい寒暖差、変化しやすい湿度を緩やかにし、水分がゆっくり均等に抜けるため、種を保護(胚が傷むリスクを軽減)しながら乾燥が適度に進みます。
さやのままのメリット
- 外気の湿度変化を緩やかにし、急激な乾燥を防ぐ
- 種の組織が壊れにくく、発芽力を長期間維持できる
追加乾燥の方法
✅ 新聞紙やキッチンペーパーの上にさやのまま広げ、風通しの良い日陰で1〜2週間乾燥させる(天日干しは避ける!強い日差しで種が傷むことがあるため)
✅ 完全に乾燥した種は軽く、さやを指で押すとパリッと割れる
🌱 適切に乾燥させた後、湿度や温度の変動が少ない場所で保存すれば、数年間は発芽能力を維持できます。
種の保存方法|さやを割って種を取り出す

せっかく完璧に乾燥させた種も、保存環境が悪いと発芽率が落ちてしまいます。特に高温多湿は大敵!適切な保存方法を守りましょう。
結論から言うと、「さやのまま保存するのはおすすめしない」です。
追加乾燥の段階では、さやが種の水分を徐々に抜くメリットがあります。しかし、完全に乾燥した後も、さやのまま保存すると、さやの内部に湿気がこもることがあり、それがカビの原因となり、乾燥状態を保つのが難しくなるためです。
とはいえ、短期間(翌年春まで)の保存なら、さやのままでも可能です。ただし、発芽率を安定させるなら、やはり、さやを割って種を取り出す方が確実です。
✅ 完全に乾燥させた種を、さやを割って取り出す
✅ 乾燥剤と一緒に封筒入れ、冷暗所で保存(冷蔵庫の野菜室や北海道では玄関でもOK)
✅ 気温が10〜15℃くらいの場所が理想的
✅ 密閉しない(タッパーなどに入れない)
🌼 マリーゴールドの種子は、乾燥に強い「正真正銘の乾燥種子(orthodox seeds)」に分類されます。乾燥させることにより、適切な条件下での発芽能力を長期間保持し、高い発芽率を維持できる性質があります。
F1とF2って何?|自家採取の前に基本を確認

自家採取する上で、知っておきたい「F1」「F2」についてお話します。
市販のマリーゴールドには、種でも苗でも「F1(エフワン)」と呼ばれる品種が多く使われています。
F1とは、性質の異なる2つの親品種をかけ合わせて作られた“最初の世代”のことです。草丈・花色・花付きが整いやすく、発芽率が高く、発芽のタイミングも揃いやすいという特徴があります。
このF1の花から採った種子は「F2」と呼ばれます。つまり、自家採取によって得られる種子はすべてF2となります。さらにそこから採るとF3、F4と世代が進んでいきます。
なお、市販されているF1マリーゴールドの苗や種は、「花粉が出にくい株(雄性不稔)」を親にして作られています。
このため、その性質がF2以降に受け継がれた一部の個体では、花粉が少なく、受粉しにくい性質を持ち、発芽率が下がる原因になることがあります。ただし、程度は品種等により異なります。
一重咲き品種|自家採取で発芽率が高くなる理由

一重咲きのマリーゴールドは、受粉・結実が安定しやすく、自家採取に適した性質を持っています。
もともとマリーゴールドは、雄しべと雌しべがひとつの花の中で近接しているため、虫などの媒介を必要とせず、自然に受粉・結実が起こる性質を持っています(自家受粉)。
つまり、花の構造上、他の個体からの花粉を必要とせずに種子を形成することができるというわけです。
一重咲きのF1品種にも、雄性不稔の系統が使われることがありますが、一重咲きは原種に近い構造を保っているため、雄しべ・雌しべが正常に機能し、自家受粉率が高い個体も多く見られます。
その結果、正常な受粉と結実が起こりやすく、充実した種子が得られやすくなります。
加えて、もともと発芽率の高い植物であるため、実際に、自家採取した種子の多くは発芽率80%以上の例もあり、比較的安定した結果が得られます。
さらに、一重咲き品種には、F2以降も親と似た性質を保ちやすい系統もあり、自家採取してもほぼ同じ花が咲くケースも少なくありません。
八重咲き品種|自家採取で発芽率が低くなる理由

八重咲きのマリーゴールドも一見すると普通に種ができているように見えますが、自家採取では発芽率が下がりやすい傾向があります。
市販の八重咲きマリーゴールドは、品種の安定性と再現性を重視するため、ほとんどすべてがF1品種です。
F1の八重咲き品種では、雄性不稔の株を親に使うケースが多く、一重咲きに比べて雄しべが花びらに変化(花弁化)している性質が強いため、花粉が非常に少なくなっています。
このため正常な受粉が起こりにくく、自家採取された種子には、中身のない“しいな”(空胚・不稔種子)が多く含まれることがあります。
実際、園芸技術資料には、「F1八重咲きから採取したF2種子では、60〜80%が不稔(しいな)だった」という報告や、「発芽率が1〜2割程度にとどまった」という例もあります。
また、育種メーカーの技術資料や説明の中では、
- 「F1八重咲きから採種した種子は、発芽率が極端に低下する」
- 「見た目に実っていても中身のない“しいな”が多く含まれる」
と明記されていることがあります。
さらに、F2以降では遺伝的な分離が起こりやすく、一重咲きの花が混ざったり、交雑によって異なる形質の花が現れたり、採取を繰り返すうちに花の形が変化し、先祖返りする(品種改良前の姿に戻る)こともあります。
ただし、これらは報告された事例の一部であり、また、F2に関する基本的な見解です。必ずしも「60〜80%が不稔(しいな)」や「発芽率が1〜2割程度」にとどまるとは限りません。
実際に、管理人の経験則では、F1八重咲きから採種したF2種子で、約80%~90%の発芽率を確認しています。
このような高い発芽率が得られた背景には、完全に雄性不稔ではない個体が、意外と多く含まれていた可能性が考えられます。
さらに、周囲の株から虫などによって花粉が運ばれ、他家受粉が成立した可能性も否定できません。
八重咲き品種|自家採種の発芽率を上げる方法

八重咲き品種の“自家採種”においては、個人でできる範囲の基本的な対策を徹底することで、発芽率を大きく改善できる可能性があります。
種苗会社では、比重選別、サイズのふるい分け、赤外線・可視光カメラによる種子の色・模様・反射率の測定などが行われており、高級野菜や重要品種ではX線検査が実施されることもあります。
しかし、これらの方法の多くは家庭での実践が難しく、唯一実行可能なのは、水を使った比重選別です。
とはいえ、種苗会社が行っているものと家庭で実践できる内容は異なり、確実な方法とはいえませんし、時間と手間がかかりすぎるため、管理人はおすすめしていません。
管理人は、既にこの記事でお話した以下の基本を徹底することで、毎年、80%~90%程度の発芽率になっています。
八重咲きのマリーゴールドは、「F2以降になると発芽率が下がりやすい性質を持っている」ことは、すでにお話しました。これは完全には避けられない事実です。
一方で、自家採取でも「発芽率自体は高く維持される可能性がある」ことも事実です。
そのため、”シンプルで当たり前のこと”を徹底するだけで、八重咲き品種の発芽率を大幅に改善できる可能性があります。
「発芽率が低い」と、様々な試行錯誤をされてきた方には、拍子抜けするような方法に感じられるかもしれませんが、ぜひ、基本を大切に、徹底してみてください!
こぼれ種の発芽率|原種由来の性質と発芽条件

マリーゴールドは、こぼれ種からも発芽することがあります。その背景には、発芽条件のシンプルさや、原種が育つ環境に由来する性質があります。
マリーゴールドは、適切な環境で種をまけば、80〜90%ほどの高い発芽率を示すことが多く、非常に発芽しやすい部類に入ります。
これは、発芽条件がシンプルで、適度な水分と温度、そして覆土さえあれば十分に発芽できるためです。
マリーゴールドの原種(Tagetes patula や Tagetes erecta)は、中南米の温暖な地域が原産地です。
この地域は、雨季と乾季がはっきりしているため、「雨が降ったらすぐに発芽できる」ような性質が備わっています。
現在、私たちが育てているマリーゴールドは、原種をもとに品種改良された園芸品種です。
特に一重咲きは、原種の発芽しやすい性質を引き継いでいるため、日本でも発芽条件が揃えば、こぼれ種で高い発芽率を示すことがあります。
一方で、マリーゴールドの種は、嫌光性種子であり、光にさらされると発芽しにくくなります。
そのため、地表に放置された状態のこぼれ種は、発芽しづらい傾向があります。
しかし、風や雨で自然に土に覆われたり、動物の活動によって位置が変わったりすることで、適切な環境が偶然整えば、十分に発芽します。
マリーゴールドが嫌光性種子であること、そして日本の気候条件が必ずしも発芽に適しているとは限りません。
それでも発芽条件が揃ったことで、管理人の庭(北海道・道東)でも、こぼれ種から八重咲きのマリーゴールドが発芽したことがあります。
北海道でこぼれ種から開花|マリーゴールドの生命力
管理人の庭(北海道・道東)では、こぼれ種で八重咲きのマリーゴールドが発芽したことがあります。
町内活動でいただいた苗からの発芽なので、具体的な品種名は不明ですが、町内や学校などで配布される八重咲きマリーゴールドは、高確率でF1品種だと考えられます。種苗会社からの業務用仕入れで、”見た目の均一性”と”開花の安定性”を重視して選ばれているためです。
発芽した時期は8月上旬頃、発芽率はおよそ1割でした。
北東向きの半日陰だったため、気温が上がらず、日照時間もやや不足していたと考えられます。
この影響で地温が上がりにくくなり、発芽に必要な温度に達したのが、ちょうど北海道で最も暑くなる8月上旬だったため、その時期に発芽したものと思われます。

寒さの厳しい北海道・道東で「越冬できた種があったこと」「自然に発芽したこと」は、とても驚きました!条件次第では北海道のような寒冷地でもこぼれ種で発芽することがあるというのは、非常に興味深いですね!
偶然とはいえ、とても驚きましたし、興味深い体験ができて嬉しかったです。
経験者の知恵|町のおばあちゃんに倣う
「よく乾燥させるといいよ」
「手間かけりゃいいってもんじゃないんだよ」
これは、管理人が住んでいる町のおばあちゃんガーデナーさんとの会話の中で聞いた、シンプルだけど確かな方法です。
インターネット上にはさまざまな情報があふれていますが、時にそれが誤解を生むこともあります。
管理人の住んでいる町の方たちは、植物を育てるのが本当に上手です。実際に毎年、八重咲きのマリーゴールドの種を採取し、翌年またきちんと発芽させている方がたくさんいらっしゃいます。
その秘訣は、採取後の“乾燥と保存”をしっかり行っていること。
なぜなら、それが当たり前であり基本だと、皆さん知っているからなんです。
マリーゴールドの発芽率が悪いと感じたら、まずは基本に戻ってみる。
完熟した種を採取し、しっかり乾燥させ、正しく保存する。
「手間かけりゃいいってもんじゃない」
という言葉の通り、地元のおばあちゃんたちが徹底している基本こそ、実は”一番簡単で確実な方法”で、結果的に発芽率を高める一番の近道なんですね。
「種が本来持っている力を活かすこと」
情報過多の世の中、こうした基本を見過ごしていることも多いのかもしれません。
実は、管理人自身は、本州にいた頃、マリーゴールドはほぼ苗から毎年育てていました。北海道に来てから、自家採取で育てている方が多いことを知り、真似して種を取り、蒔いてみましたが、一つも芽が出ませんでした…。
そこで、町のおばあちゃんたちに倣った方法を試してみると、ほとんど発芽したのです!
すごい衝撃と感動でした。
今では、毎年、町内活動で配られる八重咲き品種に対して、乾燥と保存を徹底していますが、発芽率は、80%~90%くらいで安定しています。
地元の方とガーデニングの話をしているうちに、こういう実践的な知恵に出会えるのは、本当に面白いな~と思いますね。
そして改めて、「基本を大切にすることの大切さ」を実感しました(*´ω`*)
👉 ガーデニングに関する気づきや体験、ヒントなどは、「ガーデニングのあれこれ」のカテゴリーにまとめています。
🔹 本記事の内容について
本記事の内容は、当ブログ(北海道ガーデニング)の管理人「kikori」が、自家採取や播種に関する実体験をもとに、既存の知見や地域特性も踏まえて構成・執筆したものです。(2025年8月10日に公開)
今後、新たな研究や実例が加わる可能性もありますが、記事内容はkikori自身の経験と理解に基づいたものであり、どの媒体においても無断使用や無断引用を禁じます。