かつて“飾るための菊”だった野菜|北海道の秋に咲く春菊の花

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イントロダクション用デザイン画像 鍋物やおひたしでおなじみの春菊。私たちの食卓にすっかり定着していますが、もともとは観賞用として楽しむ側面が強かった植物だということをご存じでしょうか。本記事では、春菊の歴史と、食用・観賞用の両面から見た魅力を紹介します。
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春菊のルーツ|“飾る菊”ガーランドから始まった

春菊の柔らかな葉姿|管理人の庭

春菊(Glebionis coronaria)は、地中海沿岸を原産とするキク科の植物です。

古代ギリシャやローマでは、香りのよい草として知られ、花冠や装飾に用いられた記録があります。
英名の「Garland Chrysanthemumガーランド・クリサンセマム花輪はなわのキク)」は、こうした装飾用途に由来します。
一方で、若葉を食用にする利用も古くから確認されており、観賞と食用の両面で用いられていた植物と考えられています。

やがてアジアへ伝わり、中国では「茼蒿コウトウ」として食用野菜・薬膳素材として利用が広がりました。
日本へは奈良〜平安時代に伝わったとされ、はじめは観賞や薬用の植物として扱われていましたが、江戸期以降に青菜としての利用が広く定着していきます。

原産地では秋から冬にかけて花を咲かせるのに対し、日本(江戸)では春に花をつけることから「春菊」と呼ばれるようになりました。

食卓へと咲いた花|江戸時代に広まった“食べる菊”

日本では江戸時代中期から後期にかけて、春菊は観賞利用と並行して食用野菜としても広く利用されるようになります。

武家屋敷や商人地、職人地では屋敷内に家族のための小規模な菜園が設けられ、百姓や農民もまた畑や裏庭、空き地を利用して春菊を栽培していました。

特に京都や大阪では栽培が盛んになり、香りのよい若葉を「菊菜きくな」と呼んで食卓に取り入れていました。

江戸中期以降には「園芸ブーム」と呼ばれるほど植物栽培が流行し、食用だけでなく観賞用の朝顔なども人気を集めました。

本州における栽培適期

江戸時代、本州では、秋に種をまき、「冬から春に食べる香味野菜」として定着していました。

江戸では、鍋物や吸い物などが盛んに食べられ、春菊の爽やかな香りが重宝されました。
特に「鍋物に春菊を入れると魚臭さを消す」とされ、香味野菜としての地位を確立します。

古い文献には「夏を越すと堅し」「秋気冷やかなる時、香りよし」とあります。

これは、夏を過ぎると茎葉が硬くなり、再び冷涼な季節に香りが良くなることを意味しています。

現在の本州では、春菊は秋に種をまき、冬から春にかけて収穫し、夏には株が枯れるため、越冬一年草として扱われています。

一方、当時の本州は現在よりやや冷涼で、ヒートアイランドの影響もなかったため、特に夜間は気温が下がりやすい環境でした。そのため春菊は夏を越し、茎葉が硬化して食味が落ちる時期を経ながらも栽培が続けられていました。

気温が下がると再び香りが戻り、秋には柔らかい葉が出そろって、庶民も料亭もこぞって利用していました。

つまり、秋に種をまき、冬から春にかけて収穫し、夏を越しても株は生き続け、秋には再び柔らかい葉を伸ばします。
秋の収穫を終えるころには株が老化して寿命を迎えますが、すぐに次の種まきが始まり、再び冬から春にかけて収穫する——そんな栽培サイクルでした。

北海道における栽培適期

春菊が北海道に伝わったのは、明治時代以降のことです。
本州から入植した人々が持ち込んだ野菜のひとつで、北海道の春~秋の冷涼な気候に適した作物として、家庭菜園でも親しまれるようになりました。

春菊は北海道では基本的に越冬できないため、当時も(記録は残っていませんが)一年草として春まきが行われ、初夏と秋が食用期の中心だったと考えられます。
現代でも同様の作型が一般的です。

春に種をまき、初夏までに順次収穫します。夏の盛りには当時の本州と同じく茎葉が硬くなり、やや苦みも出るため、涼しくなった秋に再び新葉や開花を楽しむ——
そのような二期作的な利用が行われていたと考えられます。

こうして、もともとは観賞用だった植物が、日本人の暮らしの中で食文化に取り込まれていったのです。

春菊は昔の姿をいまに伝える“原種系野菜”

現代の主要野菜の多くは、それぞれの原種をもとに人為的な改良を重ね、“食べやすく・扱いやすく・大量に作りやすい”形に進化してきました。

管理人が驚いたのは、”改良によって栄養価も向上した”と考える人が少なくないことです。
実際にはその逆で、原種が本来持っていた栄養密度や香味の強さは、多くの野菜で失われています。

そんな中で、春菊はほぼ原種のまま食文化に根付いています。

葉と花の香りや苦味、栄養価の高さがほぼそのまま保たれ、野生の風味を楽しめる——
春菊は、昔の姿をいまに伝える“原種系野菜”といえるでしょう。

このような“花と食の文化”をつなぐ植物はきわめて珍しいと言えます。

家庭菜園で咲いた春菊の花と葉を天ぷらに。素材の味を楽しみたくて、お塩でいただきました。口に入れたときに「サクッ → ふわっ → ほろ苦い香り」が広がり、原種の力強さを感じました。

北海道で見る春菊|秋の花壇を可憐に優しく彩る

本州では春から初夏に花を咲かせる春菊も、北海道では秋に開花します。
名前とは逆の季節に咲くこの姿は、本州の人から見れば変わっているように思うかもしれません。

けれども、もともと春菊は地中海原産の植物です。高温長日期(真夏)は苦手で、気温が下がり日が短くなる頃に開花に向かう性質があります。

つまり、原種の生理に近い動きが出やすい環境にある北海道では、むしろ自然なことだ言えるでしょう。

管理人宅でも秋の菜園の一角で、白と黄の可愛い春菊の花が静かに優しく咲き誇っています。

白と黄のグラデーションが美しい春菊の花|管理人の庭

周囲の草花が枯れ落ちる中、白と黄色の花が優しく庭を彩り、晩秋の風景に静かな明るさを添えてくれます。

10月12日。庭の多くの植物が冬支度を始める中、春菊は花も葉も乱れず、自然な姿のまま美しく咲く様子|管理人の庭

放っておいてもこんなに美しい花を咲かせ、ハナバチやハナアブなどの訪花昆虫がやってくる様子も見られます。
なんだか風情を感じますね。

雪が降る前の短い季節に、こうして咲く春菊の花は、北海道ガーデナーには貴重な存在です。

まとめ|食用と観賞・二つの魅力を楽しむ春菊

春菊は、観賞用として人に飾られていた時代を経て、食用の野菜として暮らしに取り入れられてきた植物です。
いまでは季節を問わずスーパーなどで見かけるようになりました。
それでも、秋の庭に咲く美しい花の姿を見ると、もともと“飾るための菊”だった名残を感じずにはいられません。

管理人は自宅の庭で毎年春菊を育てていますが、家庭菜園・観賞用ともに“種から育てる“タイプの園芸入門種としてスペシャルな植物だと実感しています。

春菊は育成難易度が低く、種まき後は発芽までの水やり程度です。発芽後は、ほぼほったらかしで育ち、病害虫被害もほとんどありません。
さらにコストも安く、まさにおすすめできる存在です。

この記事内に掲載している写真の春菊は、管理人が100円ショップの“よりどり2袋で100円”コーナーで購入した種から育てたものです。

管理人が蒔いた春菊の種袋。

食べても楽しめて、眺めても美しく、育てるのも簡単でコスパも良い。
しかも北海道では晩秋に咲いてくれるため、ガーデナーにとって貴重な存在。

自宅の庭で春菊を育てながら、かつて人々がこの植物をどう扱ってきたのかを想像してみる。
歴史に思いを馳せながら、春菊という植物を“年に2度、3度“楽しんでみてはいかがでしょうか。